みなさんは「カーボン」と聞くと、何を思い浮かべますか?
軽量、高強度、導電性…
実はそれだけじゃないんです。
カーボンは優れた熱伝導特性も持っており、熱対策部材として優れた材料だと言えます。
そんなカーボンの熱特性をよく表す動画がこちら↓
氷がすーーっと切れるなんてびっくりですよね!
でもこれ、一切加熱はしておらず、カーボン板が手の熱を高効率に素早く伝えていることで氷が切れているんです。
そんなカーボンの熱特性と、それを引き出すサーモグラフィティクス社の技術をご紹介します。
目次
1.驚くべき黒鉛の熱伝達能力
”カーボン材料”の中でも、最も知られているのが”黒鉛”。
鉛筆の芯にも使われ、誰もが目にしたことがあるはずです。
専門外の人にとっては意外に感じると思いますが、黒鉛は高い熱伝導率を持ちます。
人工的に合成した場合には純度が上がり、結晶が均一になるため、その特性はさらに向上します。
以降、人工的に合成したグラファイトを「高熱伝導グラファイト」と表記します。
クイズ
ここで問題です。
次の3つのうち、熱を伝える能力(熱伝導率)が一番高いのはどれでしょう?
A.銅
B.アルミ
C.高熱伝導グラファイト
図1.アルミ・銅(出典:浅井産業株式会社)
正解は…
なななんと、Cのカーボン(グラファイト)なんです!
「いや流石に銅やアルミには劣るでしょ…」と思ったあなた。
なんと、高熱伝導性グラファイトの熱伝導率は、アルミの約10倍、銅の4倍!
高熱伝導グラファイトは、アルミや銅よりも格段に熱を伝えやすいのです。
データから分かる熱特性
カーボンの熱特性を表す実験データがあります。
銅、グラファイト、アルミの板の端に熱源(75Wのヒーター)を接続して加熱した際の温度変化を、サーモグラフィーで観測した結果です。
最初はすべて温度が低い(黒色:70℃以下)ですが、4分後には加熱した端部から徐々に温度が上がっていることが分かります(紫:80℃、青:90℃)。
4分後の3枚を比較すると、銅板・アルミ板はまだ半分温度が低いにも関わらず、グラファイト板では全面で温度の上昇が見られています。
10分後にはグラファイトのみ全面120℃近くまで温度が上昇し、温度ムラも他と比べほとんどないことが分かります。
図2. 材料加熱時の温度分布の経時変化比較
この結果からも分かるように、グラファイトは「すばやく、均一に加熱できる」優れた熱特性を持つのです。
2、脆さを”カバーする”技術
「カーボンは軽くて強い」というイメージがあり、飛行機やクルマのボデーにも使用されています。
しかし一般的に”高強度”と言われているカーボンは炭素繊維に樹脂を含侵させて成形した、CFRPやC-SMCと呼ばれるものです。
図3.SMCを骨格部材に使ったバックドア(出典:ニュースイッチ『炭素繊維メーカーが成形技術に積極投資し始めたワケ』)
一方グラファイト(黒鉛)は、高強度なCFRPやSMCと異なり、脆くはがれやすい特徴を持ちます。これはグラファイトが結晶構造に弱い結合を持つからです。
図4.グラファイト(出典:ViCOLLA Magazine『化学【4分でわかる】黒鉛(グラファイト)とダイヤモンドの違いと性質』)
また、金属が「力を加えると、割れずに変形する」材料(延性材料)であるのに対し、カーボンは「力を加えると変形しやすい代わりに、割れやすい」材料(脆性材料)です。
前章でお伝えしたように、グラファイトは優れた熱特性を持ちますが、この「脆さ」がネックとなり、金属の代替としては使用できていませんでした。
新しい複合材料”コンポロイド”
グラファイトの「脆さ」を”カバー”できる新材料として「コンポロイド」というものがあります。
コンポロイドとは、高熱伝導グラファイトと異種材料を一体化した新しい複合素材です。
壊れやすいグラファイトを他の材料で包む(カバーする)ことにより、強度を高め、破壊起点が生まれることを防ぎます。
図5. グラファイトを銅で挟んだコンポロイド
グラファイトと複合化できる材料は、銅などの金属だけでなく、窒化アルミなどのセラミックも。
カーボンや金属は高い導電性を持ちますが、カーボンにセラミックを接合すると絶縁性を付与できます。
このように、目的・用途に応じて材料を変え、欲しい特性を持つ複合材を合成することができます。
図6.グラファイトをセラミックで挟んだコンポロイド
コンポロイドの熱伝導性
表面を銅で覆った場合、熱伝導性はグラファイト単体よりは劣りますが、銅よりもかなり向上するため、材料特性を向上する有効な手段だと言えます。
図7.素材単体とコンポロイドの熱伝導率の比較(出典:サーモグラフィティクス 『COMPOROIDの紹介』)
被膜の厚さを薄くするほど熱伝導率は飛躍的に向上します。
下の図で示すように、グラファイト上に窒化アルミの被膜を形成する場合には、窒化アルミ被膜の厚さが0.8 mmの場合には450 W/mk程度の熱伝導率しかありませんが、被膜厚さを0.15 mmとした場合には、熱伝導率は飛躍的に向上し、2倍の900 W/mkまで達します。
図8.素材構成割合(被膜厚さ)に対する熱伝導率の変化
どうやってグラファイトと異種素材を”接合”するのか?
カーボンは異種材料との親和性(濡れ性)が低く、接合しにくい材料です。
金属のように溶接することはできない。でも接着剤を用いるとせっかくの特性の邪魔になってしまう…。
特性を最大限に活かしながら、グラファイトと金属・セラミックを接合するには「拡散接合」という方法を用います。
図9.拡散接合のイメージ(出典:astamuse『ステンレス鋼拡散接合製品およびその製造法』)
拡散接合(熱圧着)とは
材料同士を密着させ、熱と圧力をかけることで接合する方法。
熱と圧力により、表面の酸化被膜が破壊され、材料が原子レベルで拡散して混ざり合うことにより、完全に一体化することができます。
接合の状態は熱抵抗にも繋がるため、接合技術が材料特性へ影響します。
サーモグラフィティクス社の接合技術はレベルが高く、ボイドレスで低抵抗な接合が可能です。
図10.銅とグラファイトの接合部分のSEM画像
また、カーボンと金属では、弾性・熱膨張率が大きく異なります。
そのまま接合すると、加熱した際に膨張率の差から界面の破壊や亀裂につながる恐れも…。
サーモグラフィティクス社では、界面に応力緩和層を設けることにより、状態変化に強いコンポロイドを実現しています。
3、コンポロイドが可能にすること
今までにない特性を持つ”コンポロイド”は、今までできなかったことも可能にします。そんなコンポロイドの用途・可能性をご紹介します。
高効率・管理が容易な冷却装置
通信が高速化している昨今では、通信により発生する熱量も増大していきます。
現状では水冷していますが、コンポロイドにより効率よく熱を逃がすことができれば、より管理が容易な空冷で冷却することが可能になります。
図11. ヒートシンク
冷却する部品を「ヒートシンク」と呼びますが、通信に限らずレーザー加工機や車載部品、CTなどのX線診断設備、原子力発電など様々なものを効率よく冷やすヒートシンクとして期待されています。
均一な加熱加工
図12.導入実績のある均熱加熱加工機
加熱加工設備などにおいて、熱を速く伝えることは加工サイクルの短縮につながります。
また、均一に熱を伝えられることにより、加工品の品質向上にもつながり、製品の可能性を広げることができます。
暮らしを豊かにする機能性ナイフ
ケーキ屋さんのケーキの断面ってとってもきれいでおいしそうですよね。「萌え断」という言葉が流行ったように、断面のきれいさを意識する人が増えています。
ですが、ケーキやパンをきれいに切るのって難しいですよね…。自分でお菓子を作ったことがある人なら、その苦労が分かるのではないでしょうか。
「なんでケーキ屋さんのケーキって、こんなに断面がきれいなんだろう…」
腕の違い?と思いきや、実は裏技を使っていたのです。
ケーキ屋さんではカット用ナイフを火であぶり、クリームを付きにくくしているんです。
つまり、今回のコンポロイドをナイフにできたら…
楽に誰でもきれいにカットできるナイフになりそうですね!
ケーキに限らず、おいしく解凍できる板としても使えそう!
B to Bだけでなく、B to Cにもなりうる可能性を秘めています。
さいごに
使い方次第で”不可能を可能にできる”新素材のコンポロイド。
「こんなもの作れない?」という共創のご相談も受付中です。
お気軽にご相談ください!
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