大学に通い、弱冠19歳で起業した山内萌斗さん。
彼は「ポイ捨てをゼロにする」という事業ミッションを掲げ、株式会社Gab を2019年12月に立ち上げました。
そんな山内さんの行動の原点は何なのか?彼はこれまでどんな経験をしてきたのか?
取材する中で見つけた、私たちの背中を押すエッセンスを紹介します。
目次
山内萌斗さん(20)
株式会社Gab 代表取締役社長
静岡県浜松市出身
東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT2018年度 シリコンバレー研修選抜メンバーへ選出される。
MAKERS UNIVERSITY 5期生
毎日みらい創造ラボ シードアクセラレーションプログラム 5期生
Forbes Japan Rising Star Community 2期生
そんな「全ての人が地球の規模の問題解決に貢献できるサービスを提供する」ことを実現した山内さんが、どのような足跡を辿って今に至ったのかを取材しました。
1、起業を思い立ったきっかけ
—大学2年生の頃に起業なさったということで、驚きです!起業にはいつから興味があったんですか?
(山内さん)高校生の頃から起業には興味がありました。
—高校生から!なぜそんな早いうちから”起業”という選択肢が視野にあったのでしょうか。
中学生の頃から、学校のありかたに課題を感じていて、”変えたい”と思っていたからです。
僕は学生の頃、自分を受け入れて貰えない局面を経験し、”寂しさ”を感じることがありました。
その経験から、自分は生徒に寄り添う先生になりたくて、教育学部への進学を視野に入れていました。そのため、高校では先生や教育現場の課題をつぶさに観察していました。
高校生の頃、授業はつまらないと感じ、僕の周りも同じように感じている人は居て。そのせいで真面目に聞かない生徒も多く居ました。
なぜつまらないと感じるんだろう。
つまらない原因を考えて気づいたのが、”授業は基本的に先生が一方的に教える構造”だということ。
この構造は日本では当たり前となっていますが・・・
相手が一方的に喋りっぱなしの会話がつまらないように、ずーっと受け身の構図って面白くないんです。
そんな授業を変えたいと思っていました。
以前は、教師としてその課題解決を目指していましたが、教師だと自分が担任をしている1つの教室や、手の届く範囲しか変えることができない。
高校2年の夏、進路を考えている僕の頭に”起業してサービスを創る”という道が見えたんです。
日本中の多くの教室を変えるには、サービスなどを作って広める方が効果があると感じたんです。
そう思ってから、大学を選ぶ基準が”起業に役に立つか”という目線になりました。サービスを創るのに必要なプログラミングを学ぶために、進路を大幅に変えて情報学部へ入学することにしました。
ただなんとなく大学へ通うのが嫌で。大学は必要なものを学ぶために通うものだと思うので、自分の将来へ繋がる進路を選びたかったんです。
そんな時知ったのが「EDGE-NEXT(Exploration and Development of Global Entrepreneurship for NEXT generation)」という次世代アントレプレナー育成事業。
静岡大学ではこのプログラムを導入した講義を行っていました。自分のアイデアを事業化するための講義なのですが、東京大学で東大生と同じ講義を受けることができ、ビジネスコンテストの審査で選出された者はシリコンバレーへ連れて行ってもらえるとのこと…!
これを知り、静岡大学に行こうと志し、希望通り合格。講座を受けることができました。今思えば、この選択が今の僕のへ繋がる分岐点だったと思います。
静岡大学(出典:静岡大学 情報学部HP)
2、大学での事業検討経験
—次世代アントレプレナー育成プログラム(EDGE-NEXT)ではどんなテーマを選びましたか?
僕は高校生までに抱いていた「教育現場を変えたい」という想いから、選んだ題材はやはり”教育”でした。
”生徒が主人公”になるサービスを考えたんです。
—どんなサービスだったんでしょうか。
ロボット”ペッパーくん”を用いて、”生徒が主体的に授業を作る”ことを目指した「NEOROBOX」というサービスを作りました。
pepper(商標:ソフトバンク株式会社)
—ペッパーくんを! 一体どんな風に使ったんですか?
事前に問題を生徒に与え、その解き方や大事だと思うポイントなどを記載した資料を生徒に作ってもらいます。
授業ではその資料を元にグループワークを行い、先生はそれに対して助言やサポートを行う。最終的にグループですり合わせた資料をアップロードし、それをロボットが授業をする動画コンテンツをオンライン上で共有する、というものでした。
生徒が主体的に考え、先生はその思考のサポートができることで、本来の”あるべき学びの姿”を実現できるんです。
そのサービスの実証実験を浜松市の中学・高校4校で行いましたが、生徒・教師からの満足度は95%でかなりのご好評を頂きました。
そのサービスは正式に展開することはしませんでしたが、物事を根本的に変えることができる”起業家”により一層、魅力を感じました。
3、シリコンバレーでの経験
—EDGE-NEXTにはビジネスコンテストがあると伺いましたが、コンテストへも出場したんですか?
はい。教育サービス『NEOROBOX』で出場した結果、シリコンバレーで研修を受ける選抜メンバーへ選ばれることができました。
このサービスは静岡大学情報基盤センター長の井上教授にもメンバーとして参加して貰っており、シリコンバレーへは学生メンバー3人で渡航しました。
—現地でのフィードバックは何かありましたか?
「何千万円の投資で何億円になるのか?」「それは本当にワールドワイドでスケールするのか?」などのツッコミを入れられて、正直何も答えられませんでした。
ビジネス的に考えると公立高校はお金を沢山もっているわけではないし、規模も小さいので市場としては大きくありません。
海外の教育のことを聞かれても「日本ではこうなんです!」と自分の原体験からしか言えなくてVCから「それじゃスケールしないね」と…。
—厳しいですね…。
そこまで言われて、ハッとしました。
自分は「世界の教育を変えたい」と口先では言いながら、本当は自分が授業がつまらないのが気に入らなかっただけかもしれない。自分の欲求を満たそうとしているだけかもしれない。
—でも、起業するきかっけは、そういう欲求からくるものが多いんじゃないでしょうか。
確かに自分の欲求からくる起業もアリだとは思います。
でも、シリコンバレーの起業家のプロダクトは「なくてはならない」モノなんです。起業するのは人間の生物としての本能で、人類が滅亡しないために、地球の課題を解決する。
だから原体験に依存せず、誰かがやらないとまずいことが多い。そういうものだからこそ、本気度が段違いで高いんです。
そんな起業家の視座の高さに衝撃を受けました。
振り返ると、自分がこれまで考えていたプロダクトは「あったらいいな」に基づくモノが多いように感じました。
人生をかけるには、ちょっと違うのかもしれない。
何のために起業をするのか。
その問いを得ることができ、「このままじゃいけない」と気づけたのが、大きな収穫だったと思います。
4、プロダクト製作からの学び
シリコンバレーでは授業の一環で起業する人も多く、大学ではベンチャーキャピタル(VC)から資金調達する方法やプログラミングなど即戦力に繋がる教育をしていて、それがプロダクト作りへもつながっていると感じました。
座学より実学というのが日本との大きな違いに感じましたね。
僕もそれまでJavaを学んでいましたが、あまり用途が無かったため、Java Scriptに切り替え、サービスを作りながら実学で学ぶことにしました。
—Java Scriptの勉強をしながら、何を作りましたか?
Closedに繋がるSNSアプリ”TOMOTO LINE Bot“を作りました。
「電話したい」や「ごはんたべたい」など、相手の意志ステータスを表示することで、自分の欲求に合った相手を選べるSNSを目指しました。
—なるほど、便利そうですね!どのくらいの期間で作ったんですか?
1か月半くらいですね。1か月で勉強を終えて、すぐカタチにしました。
作ってから知人に広めて、150人くらいの人に使ってもらいました。
—そんなにすぐ!?すごすぎです!!それが今の活動に繋がっているんでしょうか。
いや、実は違うんです。
そのアプリを持ってVCなど回りましたが、全然相手にされませんでした。SNSはFBやLINEなどの競合が厚いですからね。
5、システムで街を変える!MyGOMI.の誕生
模索する中で、20日間の合宿型のビジコンに参加しました。
「東京の課題を解決する」というお題だったので、まずは課題を見つけるため、僕とチームメンバーは渋谷の街へ繰り出しました。
僕は静岡出身、メンバーは福岡出身の子だったのですが、だからこそ渋谷の街のポイ捨て・ゴミの多さにはとても驚きました。
ハロウィン後の渋谷センター街の様子 (出典:KATATEMA)
静岡では車で移動をすることが多いため、ゴミを持ち歩くことが無いです。
クルマに入れられますからね。だからゴミが出てもあまり気にならないし、どこかにおいて行きたいとも思わない。
それに対し、渋谷含め東京では、基本的に徒歩や電車で移動しますよね。
そうなると手にゴミを持つのが邪魔で、手放したいと思ってしまう。
タピオカミルクティーを撮影する様子(出典:日本食糧新聞 2019.11.29)
最近では手軽に食べられるフードやタピオカドリンクなどが流行しており、食べ歩きをする若者が増えていますが、その弊害としてポイ捨ても目立つようになりました。
でもみんな路上にポイ捨てしたいわけじゃない。捨てる場所が無いんです。
320人にアンケートをとった所、85%の人が街でゴミの捨て場に困ったことがあると回答しました。
—確かに、渋谷はゴミ箱がほとんどないですよね。でもあれってテロ対策とかじゃないんですか?
実はそういう訳では無いんです。その証拠に、テロがあったアメリカやパリでは、今も街に普通にゴミ箱がたくさんあります。
なぜ渋谷にゴミ箱が無いかというと、管理コストが結構かかるからなんです。
ゴミ箱を置くと、その本体の費用に加えて、ゴミ袋の回収・交換費用、ゴミ箱本体や周辺の清掃など、付随した作業が生まれます。
そうなると自治体としては、もういっそ清掃員を雇い、ポイ捨てされたものを拾った方がコスト削減に繋がるんですよね。
—なるほど。だからゴミ箱を置きたがらないんですね。
そうなんです。でもこの清掃員の人件費、結構高いんですよ。
江東区だけで、年間5億円以上かかる。
—年間5億円!? それって税金から出ているんですよね…?
もちろんそうです。でも、清掃は必要ですよね。
ポイ捨てをそのままにすると、景観が悪いだけでなく、犯罪率へも影響します。排水溝が詰まることで水害へも繋がるし、自治体としては取り組まざるを得ない課題です。
なので、清掃員の清掃効率を上げられるようなシステムを創ろうと思いました。
実際に作ったモノについては、次の章で説明させていただきます。
6、Gab社の取り組み
ゲーム感覚で街をきれいに! MyGOMI.アプリ
最初にローンチしたのが「MyGOMI.」というアプリで「一般の人がゴミ問題に貢献できる」ようにするもの。
と言っても通行人がゴミ拾いをする訳では無く、スマホでゲーム感覚で参加するだけ。
やることは簡単で、ゴミを見つけたら、その場所をポチっと押して報告するだけ。
MyGOMI.を通して得られたポイ捨てデータはMyGOMI.Analyticsを用いて分析し、ゴミ箱を設置するのに最適な場所を検討します。
必要とされている場所にゴミ箱を設置するため、ポイ捨てが減り、街がきれいになる。
ちょっとしたそのワンクリックが、街をきれいにすることに繋がるってわけです。
ゴミを拾えと言われても難しいかもですが、ポチっとするくらいなら気軽にできますもんね。
—確かに!それなら潔癖症でもできちゃいますね。笑 現状のユーザー数はどのくらいなんでしょうか?
2020年9月現在、515名のユーザーに登録頂いていて、データ登録数も27000件を突破しました。
—すごい!!そんなにユーザーやデータを集められたのは何故なのでしょうか?
MyGOMI.を通じての体験を提供していることが、ユーザーの増加につながったと考えています。
MyGOMI.でゴミの報告をすると、ワンタップで成果をツイッター上でもシェアできます。それをMyGOMI.アカウントもシェアし、多くのいいねが集まります。
他の人からの”いいね”により、メンバーとして参加している感覚・貢献感が高まるのです。何事も、一人で続けるのはつらいですが、他の人から応援されると続けやすいですから。
オンラインだけの繋がりだけでなく、月に5回ほどイベントも開催しています。
出会い目的の合コンだと躊躇しちゃう人も、「ゴミ拾い」という共通の目的があると参加しやすく、自然と仲を深められたりします。このようにして地域コミュニティの形成にも貢献しています。
スマートゴミ箱 MyGOMI.Box
もう一つは、スマートゴミ箱の「MyGOMI.Box」。MyGOMI.で報告が多かった場所に設置します。
これはまだ開発中ですが、清掃の効率化を目指しています。
ゴミ箱には、積載量センサー・インターネット通信機能が搭載されており、その情報が分析ツールへ反映されます。
積載量マップイメージ
満杯のゴミ箱を見える化することで、清掃スタッフの業務効率を最大化します。
それにより、清掃員人数を減らしても、効率よくゴミを回収することができます。
—ゴミ箱の設置費用は自治体負担ですか?
いえ、自治体へはゴミ箱と清掃員を無償提供します。
まだ構想段階ですが、清掃員はキャスター付きのゴミ箱を用いながら、ゴミの回収を行う予定です。
ディズニーランドのスタッフがパーク内を清掃するイメージに近いです。
清掃スタッフイメージ(東京ディズニーランドで撮影)
代わりに、ゴミ箱と清掃員の費用はスポンサーの広告掲載料によってまかないます。
ゴミ箱にはスポンサーの広告を載せ、下の写真のようなゴミ箱2個セットを50か所に1年間設置します。そのエリアで広告を目にする機会がかなり増えることになります。
これはSDGs広告なので、その企業の宣伝だけでなく、街の美化へ貢献しているというCSR面でのPRにもなるため、地元企業のPRには適しているのです。
—そう言われてみると、ゴミが多いところほど、人が多くて広告効果が高い。理にかなった投資とも言えますね。
7、なぜ今「ゴミ」なのか
—そこまでゴミ問題にこだわったのはなぜなのでしょうか?
街のポイ捨てゴミって、実は海洋汚染にもつながっているんです。
海洋プラスチックのうちの8割が街から出たもので、排水溝を経由しても河川へ流入しているようです。当然、ポイ捨てされたゴミも、それに含まれています。
—街から川まで!?知りませんでした…。
こういう影響って、長い年月をかけて問題になるので、当事者意識が薄くなりがちなんですよね。
しかも、今は暮らしがとても便利だから、それを捨てろと言うことは難しい。
誰もがストレスなく参加できる仕組みを作ってあげることにより、
ポイ捨てゼロを実現できる
——そう強く信じています。
さいごに
株式会社Gabはスマートゴミ箱MyGOMI.Box導入に向け、11月頭にクラウドファンディングを予定しています。
未来の環境を守り、暮らしやすい街をつくるために。
あなたのご支援をお願いします。
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